7日目(5/18)
昨日の雨も上がり今日は天気が良いらしい。
昨日ルートを短くする事に決めたので少し気が楽だ。
6:00出発。お花畑は土が流出して惨憺たる有り様だ。
アザミ畑に向かって登る。雪の中、慎重にルートを探しながら登り進む。小聖岳手前で、アイゼンを装着する。雪の壁を慎重に登る。小聖岳山頂まで2時間かかった。
小聖岳山頂でアイゼンを外した。聖岳山頂まではガレを登る。ガレは崩れていて、これまたルートが不明瞭だ。時たま赤○印に出くわすので、大方合ってはいるようだ。
天気は良く日差しは暑いが、風は冷たい。
危険なガレ場を登りきると、頂上の看板が雪の上に出ていた。
そしてその先には赤石岳が見えた。でかい。やはり南アルプスは山がデカい。
振り返ると、これまで歩いて来たルートを見渡す事が出来た。
これより兎岳を目指す。下りに雪渓を滑り降りるが、一度転べば真っ逆さまの絶壁。
日が高くなり雪が柔らかくなり、足がズボズボはまるようになって来た。
真っ赤なラジオラリアは濡れて滑りやすい。
なんとか聖兎のコルまで下って来たがもうヘトヘトだ。
ここから登った所に兎岳避難小屋があるはずだ。だが少し登ると再び雪の斜面。
だがこれはロープ無しではとても渡れそうに無い。これは駄目だ、引き返そう、そう結論づけたのは一瞬だった。
たとえ今、これを渡れたとしても、この先こんなのが何度となく出てくるに違いない。そうしたらいつか転落するだろう。それから斜面がもうヤバそうだ。さっきヘリが荒川岳の上でホバリングしているのが見えたが、ひょっとしたら雪崩でもあったんではないだろうか。
その場でしばしへたり込む、しばらくぼーっと山を見つめた。
仕方なく今来た道を引き返そうと振り返ると、カモシカの
でかいけつが一目散に逃げていくのが見えた。付いて来ていたのだろうか。
さっき歩いて来た足跡は、もう溶けて無くなっていた。下って来た道を登り返すのは予想以上にキツかった。
そして予想通り斜面の上部に亀裂、もうすぐ雪崩が起きる雪の斜面を見て恐ろしくなった。
引き返して正解だったと思った瞬間だった。
そう思うと赤石岳が余計に遠く見えた。すぐ目の前なのに。『なぁにまた来るさ』と心の中で一人そう思った。
這々の体で聖岳山頂まで引き返すと、なんとつがいの雷鳥がピョコピョコ歩いていた。
雄を見たのは初めてだ。なんというラッキー!。沈んでいた気分も盛り返した
聖のガレを慎重に下る。
前聖から聖小屋までの下りで再び迷い、沢に下りてしまった。
なんとか聖小屋まで辿り着き、沢の水を一人ガブ飲みした。
今日も冬季小屋のお世話になりますかね。
さて、明日はどうしようか・・・、椹島から下るか、二軒小屋から、転付峠越えで帰るか、
はてさて・・・
8日目(5/19)
二軒小屋経由で帰ろうと思ったのは、聖平入口~田代~井川間の林道歩きが長すぎるからだ。
登山靴で林道を歩くのは苦痛以外の何者でもない。
ただ、転付峠は橋の崩落が進んでいると地図に書いてあるのがどうしても気になった。
聖小屋からの下りもまだまだ残雪があり、しかも柔らかい雪で歩きにくい。
さらには斜面が崩れており、完全に道が無い個所も多くあった。
毎年小屋の人が、シーズン前にルートを整備しているんだなぁと、改めて思った。
2000Mを下回ると、雪もようやく無くなった。雪が無くなると楽しい山歩きだったが、
靴が濡れていて不快だ。
この靴はゴアテックスで無いのだが、やはり通気性はかなり重要だなと思った。
途中のつり橋
下の方まで来ると、杉の木を伐採する音が聞こえた。8日ぶりの人の気配だ。
ようやく聖岳登山口に着いた。
ここから椹島まで1時間、二軒小屋まで約4時間、一番辛い林道歩きだ。
まだ舗装道路で無いのが唯一の救いか。
椹島で、偵察がてら休憩するつもりだったが、林道から奥まった所にあるようだったので
通り過ぎる事にした。
・・・ただひたすら歩いた、何も考えずに歩き続けた。足がものすごく痛かったが歩き続けた。
巡礼ってこうゆうのかな・・・
途中、東海フォレストの作業員の人に会った、おじさんは休憩中だったが、どこまで行くの?と
聞かれた。1週間ぶりに人に会い、久しぶりにしゃべったので、うわずった声で「二軒小屋まで」
と答えた。
ずっとしゃべらないと声の出し方忘れるんだな、と初めて知った。
二軒小屋まで残り1時間くらいの所で軽トラックとすれ違った。
軽トラはバックで戻って来て、またどこまで行くのか聞かれた。
二軒小屋までと答えると、「ならいいや、千枚小屋かと思った」と言った。
そのまま別れたが、千枚小屋が何なのかすごい気になった。
ようやく二軒小屋に辿り着くが、もうへとへとだった。やはり林道歩きは辛い。大嫌いだ。
二軒小屋は4月下旬から営業しており、人がいた。ただ、客は誰もいなかった。
転付峠越えの事を聞いてみたが大丈夫そうだった。橋が崩落しているのは以前から
との事だったが、12日に降った大雨の状況は分からないとの事だ。
テントの受付を済ませ、テントを張る準備をした。
テン場は芝生で、テーブルや椅子もあり、山の中とは大違いの快適な場所だ。
ロッジも綺麗そうだったので今度皆で来ようかなと思った。
ただ山は見えなかった。あと、河の音がうるさい。
9日目(5/20)
5:00に出るつもりだったが、テントを収納する袋が見つからなくて5:20に出発。
登りは1時間半くらいと聞いていたので、そのつもりで登り始める。こちら側の山は
雪も無くて快適だ。足が痛かったが、調子よく登る。
最後に1時間半より少し掛かりそうだったが、1時間半ですよと言われていたので
何となく急いでしまった。くだらない・・・
転付峠には何も無かったが、富士山が良く見えた。
少しガスがかかっていたが中々綺麗だった。
アルプスの山々が反対側に見えたが、これを下るともう見えない、
名残惜しいが先に進もう。また来るさ。。
さて、ここからが問題の下りだ。下り始めて直ぐに足の痛さに閉口。
やはり下りに来ますか・・
とりあえず最初の1時間、沢の出会いまでは特に問題なく快調に下る。(足が痛いが)
沢の出会いは、水が多いかなと思ったが、何とか渡ることが出来た。
ここから保利沢小屋まで40分ほど歩く。小虫がうるさく顔の周りを飛ぶ。ムカつく!
途中、倒木や斜面の崩落等があり、荒廃の気配を感じる。足の痛みもあり、かなり
ゆっくりペースだったが何とか40分で保利沢小屋に着いた。
さてここからが問題だ。
下り始めると直ぐに橋があったが、ボロボロだった、その後もボロボロなのは当たり前で
崩れて苔むして全然使っていない物等、ひどい有様だ。
橋が落ちている個所は仕方なく、脇をソロリソロリと渡る。
しかし橋No.52こいつは酷い!長さ5mくらいの橋が完全に崩落、高さも河まで10mくらいは
ありそうだ。
しかも、壁にワイヤーが渡してあるのだが、向こう側が外れてしまっている。
思わず「まじかよ!」と声が出た。
ワイヤーを手繰り寄せてみると、固定は出来ないが意外としっかりしたワイヤーなので、
ちょっと手掛かりにはなりそうだ、足を踏み外せば、”ぷらーん”となるが・・・
慎重に慎重に、足を岩の小さい出っ張りに掛けて渡る。何とか渡れた。
ただこの区間登るのは無理だと思う。(川迄下れば何とかなるかもしれないが)
その後も橋はまともな物は無かったがソロリソロリと渡る。それでも何とか1時間、
神経をすり減らしながら、大滝迄辿り着いた。
大滝は中々見ごたえのある滝だった。(滝壺で遊んでみたい)
少し休憩し、さらに下る、20何本かの橋を渡る。大滝から下は上流よりはまだ良かった。
これなら何とかなりそうかも、と思い始めたNo.18!ガーン!!
今度は河を渡る橋が流されてしまっているじゃないの!こ、これは・・・
もう”ピョーン!”しかないのす。
うーん、なんか滑りそうな向こう側の岩迄約1m、空身で運動靴なら何て事無いのだが、
ザックが重い、靴は登山靴。
手前で何度か飛んでみる、靴紐を締めなおし、さて!
うーん、中々足が出ないんですけど・・・
と言ってても始まらないので、意を決していざ!”ピョーン!ピタッ!”
時間が止まった・・・・・・ふぅ何とか岩にしがみつきました。
これも反対側からは無理だろうなぁ。
危険はこれが最後だった。
長い激闘の末、最後は工事用足場だった。ダム工事だろう。
地図と道が変わっており、さっぱり分からなかったが、通りがかった工事の人に道を
聞いた。このま舗装道路を下れば良いらしい。
代わりに転付峠までの事を聞かれた。もちろん「橋が崩落していて危険なので無理です」
と伝えた。
あと熊に合わなかったか聞かれた。工事の人が近くで見たらしい。
途中もう一人工事の人に会い、転付までの事を聞かれたが再度、無理!と言っておいた。
また、熊の事も聞かれた。どうやら本当に出るらしい。
舗装の急坂という最悪の1時間半を終えやっと、バス停についた。それは山に囲まれ、ポツンと立っていた。
天気はピーカン、靴を脱ぎ、靴下を乾かしバスを待った。
ゴアテックスの靴を買おう。今回の山行でつくづく思った。
おしまい。
[1回]
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